スリッパを履くと暖かい

2012/12/10

 先週、スリッパを履くと足が冷えないということに気がついた。僕はこれまで30年間生きてきたけれど、その日までスリッパというものの存在意義がまったくわからなかった。外を歩くなら靴を履けばいいし、家にいるなら脱げばいい。内履きというのは、単にお客さんが来たときに歓迎の意を表するための装飾だと思っていたのだ。たとえば祝儀袋の水引のように。

 しかしフローリングの床の上で冬をすごすのはあまりにも寒かった。僕はフローリングの部屋で一人暮らしを始めた5年前からというもの、毎年11月から3月まではほとんど意思のある生物として活動することができなかった。椅子の上かソファの上に横たわり、人間の形によく似た鉱物のように動かずに一日をすごしていた。

 でも先週、スーパーマーケットでふとスリッパを見ていたら、「ひょっとしてこれを履けば足が寒くないのではないか」と思った。それほど高くはなかったし、足の湿気を温度に変換するような特殊な素材でできているという売り文句が横に書いてあったので、そそのかされて買ってみた。帰ってそのスリッパを履いてみると驚くほど寒さが軽減された。おかげでこの冬はすこしまともな生物としてすごすことができそうだ。

 なんだか馬鹿みたいな話だけど、そんなふうになにかの拍子に発想の死角みたいなところに入り込んでしまう物事がある。キッチンの蛍光灯の意味がわかったのも先月ぐらいだ。「こんなところ照らしていったいなんの意味があるんだ」と思っていたけど、つけてみたらとても野菜が切りやすかった。でも箸置きの意味はまだわからない。箸なんて直に机の上に置けばいいじゃないかと思うが、それもいつか理由がわかるときが来るのかもしれない。