美容院に置いてある雑誌

2013/06/03

 美容院で髪を切られているときにだけ雑誌を読む。服とか芸能人とかが載っている雑誌だ。普段は読まない。雑誌を読んでいれば美容師が話しかけてこないので楽だから読む。でも美容院に置いてある雑誌はたいてい全然面白くない。いろいろな服が紹介されているけど、それを見せられた僕はどうすればいいのかがよくわからない。これが通販のカタログなら気に入った服を注文すればいい。しかしこういう雑誌の場合はまずその入手方法を検討するところから自分でやらないといけない。面倒くさすぎる。その服を買うとか買わないとかいう発想の切り口がそもそも間違いで、世間のファッションセンスの潮流を学べということなのか。僕は最近ジョルジョ・デ・キリコの画集を買ったけど、確かにそれをめくりながら「この絵はどこで買えるんだ?」とは考えない。そういうことなのか。どっちにしろ面白くない。しかし刃物を持って背後に立っている知らない人と話をするよりは、買えないシャツを眺めているふりをしている方がましだ。

 で、読み進めて行くとそのうち活字のページが出てくる。だいたい「こうやって異性にもてよう」というメッセージが書いてある。そういうページを見るといつも思うのだけど「どうやって他の男と差をつけるか」という問題を考えるための情報源として、男性陣に向けて発信された雑誌ほど無意味なものはないと思う。差がつかない。ではどうすべきかというと、女性向けの雑誌を読むべきだと僕は小学生の頃から主張し続けている。女性雑誌の方には「VS男性」という視点で一般化された情報が書いてある。これ以上に敵の手の内を知る有効な手段があるだろうか。ない。戦争論を読んでいなくてもそれぐらいはわかる。そういう女性雑誌の記事にばっちり共感・納得してしまうタイプの女性を対象と設定することが個人的に善きことなのかどうかという問題が次にあるのだけど、すくなくとも男性向けの雑誌を手に取るというのはアプローチとして第一歩目から間違っていると思う。

 髪を切られている最中には「美容師+客」でチームを組まされて隣のチームと会話の盛り上がりっぷりを競争させられているような錯覚に陥ることがあるのだけど、僕はだいたいこういうことを考えているので会話の役には立たない。上で書いた理屈を力説した挙げ句、女性雑誌を持ってこられたりしても困る。そういうことは全然望んでいない。今回僕の隣に座っていた別のチームは花粉症の話で多いに盛り上がっていた。女性の客が前髪を切られながらものすごく楽しそうに笑っていた。どうやったら花粉症の話題で女性をあんなに笑わせることができるんだろう。僕のパートナーの美容師も二人ぐらい芸能人の名前を挙げて僕に話しかけて来てくれたのだけど、僕はどちらも知らなかった。黙って髪の毛を切られて、頭を洗われて、金を払って店を出た。