銭ゲバと通りすがりの猫

 Kindleストアで「銭ゲバ」が売っていた。上巻が99円だったのでまんまと買ってしまった。おもしろい漫画だった。僕は面白い本を読んでいると無意識のうちに音読してしまう悪い癖がある。無意識なので人に指摘されて気がつくことが多く、なるべく人前ではやらないように気をつけている。でも自分の部屋にいるときは気をつけない。だからたぶんけっこう音読しているはずだ。気がつかないことが多いけど。

 そのときも「銭ゲバ」を音読していた。なぜ自分でそれに気がついたかというと、背後の窓の外をなにかが横切ったからだ。振り返ってみると猫だった。僕の家のまわりには猫が多い。いいことだ。どういうわけかその窓の位置はこの界隈において野良の生物の通り道になっているらしく、猫が通ったりカラスが止まっていたりする。網戸の反対側にヤモリが張り付いていたり、窓枠にカエルが座っていたりもする。近所の住宅に緑が多いせいかもしれない。とにかく猫が窓枠のところを歩いて来て、こっちを見ていた。で、僕は自分が銭ゲバのセリフを読み上げていたことに気がついた。途中で声を出すのを止めてもよかったのだけど、きりが悪かったので最後まで読んでしまうことにした。なにしろ相手は猫だ。人ではない。

銭ゲバはわたしだけじゃないズラ。
どいつもこいつもきれいなことをぬかしているが、
みんな銭ゲバズラ!!
その金をもってまちをあるいてこい。
そして銭のありがたさをよくあじわってこいっ!!
銭があれば酒でも女でもすきほうだいズラ!

 そこまで読み終わっても猫は動かなかったので、ちょっと構ってやろうと思って立ち上がって近寄ってみた。猫はどこかへ行った。窓のカーテンを閉めて「銭ゲバ」の続きを読んだ。けっこう読み応えのある漫画だったから日曜日の半分がそれだけで終わった。カレンダーを数えてみたら2013年には日曜日が52日あった。その中の1日の半分。1/104。が、そのように過ぎた。