テレビを見ない

2012/11/26

 自分の部屋にTVがない環境で育ったので、TVをつけて時間を過ごすという習慣がない。日に一度もつけない。だから芸能人とかTV番組の話題にとてもうとい。大学生のころに優香の顔がわからなくて恥をかいたことがあった。名前は聞いたことがあるし、顔を見せられればどこかで見たことがあるような気がするのだけど、その二つを照合することができないのだ。これはまずいと思って学習のためにTVをつけてみたけれど、登場する華やかな人々は誰一人として名札をつけていなかったので混乱が一層深まっただけだった。

 一人暮らしを始めてから液晶テレビを買ったけど、そんなわけでほとんどいつも死んだように沈黙している。映画を見たり、ゲームをするときだけつける。それ以外の時間はパネルにぼんやりと僕の部屋が映っている。その黒い板と向かい合う格好でソファに腰掛けて一人で夕飯を食べていると、「2001年宇宙の旅」に出てくるモノリスとか、ジョージ・オーウェル「1984年」のテレスクリーンを前にしているような妙な気分になる。いったいなんだって僕は40インチもある液晶テレビを買ってきたんだろう。昔の自分は理解に苦しむことばかりする。

 でも一年に一回ぐらいの割合で、ふと指が向いて日曜の夜にサザエさんをつけてみることがある。そういう見方をすると、たぶん毎週見ていては気がつかないような変化を見つけることができる。先週の日曜日にその「サザエさん・デイ」が訪れたので、僕は一年前との差分を観測した。聞き覚えのないBGMは去年見た時よりもまた少し増えていたし、カツオが赤いセーターを着ていてびっくりした。僕の記憶する限りでは、赤いセーターを着たカツオなんてこれまでに一度も見たことがない。なにより全然似合っていなかった。それはあの家の住人にはビビッドすぎる色合いだったのだ。

 でもきっとカツオのセーターの色を決めている会議があって、そこで赤い色を提案した人がいて、それを承認した人がいたんだろう。その中の誰かがなにかの間違いでこのページを見るかもしれないのでもう一度念のため書いておくけれど、カツオに赤いセーターは全然似合っていなかった。