マンションの入り口から表に出ようとするとオート・ロックのドアが開かなかった。頭上を見上げるとセンサーのようなものがあったので、それが故障しているのかもしれないと僕は考えた。横を見ると別の住人が配電盤をしげしげと眺めてこの問題について調査をしていた。しかしコミュニケーションを始めるためのうまい枕言葉が思いつかなかった。相手は僕に気がついていないようだったので、とりあえず息を殺して部屋へ引き返した。
引き返しても意味がないのだ。僕は外へ出たいのだ。玄関を見るとゴミ袋を置き忘れていた。そういえば今日は燃えるゴミの日だった。僕はそのゴミ袋をもって外へ出て、再びオート・ロックのドアの前までやってきた。配電盤を眺めていた住人はいなくなっていた。
事態が解決していたとは考えにくかったが、僕はためしにゴミ袋をもってドアの前に立ってみた。するとドアが開いた。僕は安心してゴミ置き場にゴミを捨てて出かけた。
用事を済ませて部屋に帰ってきたあとでティッシュを切らしていたことに気がついた。それでコンビニに行くために一度脱いだコートをまた羽織って外へ出た。でもまたオート・ロックのドアが開かなかった。僕は首を傾げた。配電盤を見てみたが、関係がありそうには思えなかった。
「ゴミ袋がないと開かないのかもしれない」と考え、僕は部屋に引き返した。でも捨てるべきゴミはもうない。朝捨てたばかりだからだ。僕は新しくゴミ袋をひとつ広げて、いつか捨てようと思っていたいくつかの賞味期限切れの調味料や古くなった野菜を放り込んだ。そして口を縛ってそれを片手に持ち、ドアの前に立った。ドアは開いた。僕はゴミ袋を持ったままコンビニに入り、五箱がセットになっているティッシュを買った。若いアルバイトの店員はずっと怪訝そうに僕の手のゴミ袋を見ていた。
次の日に見るとセンサーは新しいものに取り替えられていた。やはり故障していたらしい。それでオート・ロックのドアはいつも通り問題なく開閉するようになった。