結婚式と冥王星について

 結婚式にお呼ばれした。指定された場所に時刻通り行ってみると、そこでは高校からの長い付き合いである友人が結婚していた。

 会場に案内され、席に座ると足下には早くもおみやげの袋が置いてあった。僕はおみやげをもらうのが大好きだった。待ちきれずに式の途中でちらりと中を覗くと、小さい箱と大きい箱が二つ入っていた。舌切り雀のように一方を選択する必要はなく、両方とも持ち帰らせていただくことができた。

 家に帰って開けてみると引出物のカタログが入っていた。カタログを見て、そこから自分のほしい物をなんでも選べるすごいやつだ。まるで四次元ポケットではないか。これであれば、いただく方が不要な物を運悪く受け取ってしまい、困ってしまうということがない。どこかで誰かがよくできたシステムを考えたものだ。

 ちなみに僕の将来の夢の一つは、自分の結婚式を挙げる際に新郎・新婦の二人の顔写真と結婚式の日付、そして自作の詩が大きくプリントされた壁掛け時計を作成し、引出物として列席者全員に無理矢理押し付けることだ。毎時ちょうどになるたびに録音された二人の肉声が再生され、時間を知らせてくれるのだ。その機能をオフにすることは、決してできない。式を終えた僕は、その発注した時計の数と同じ数だけノートを用意し、持ち帰られたそれぞれの時計がどう扱われ、最終的にどのような結末を迎えるのか、夜眠る前に想像しながらノートを1ページづつ埋めていく新婚生活を送ろうと日頃から考えていた。あるいは、次に列席者の誰かと会ったときに「時計の具合はどうですか」と聞いて相手の顔色を伺うのもいいかもしれない。しかし、そのようなアイディアに賛同してくれる女性には出会えていないので、僕はまだ結婚をする予定がない。まったく残念なことだ。

 話がそれた。僕はカタログをめくりながら、どれをもらうか悩んだ。最初に目に止まったのは包丁だった。万能包丁と菜切り包丁のセットがあった。しっかりした包丁を自分で選ぶ機会もあまりないし、よい選択のように思えた。しかし、もし強盗が我が家に押し入り、不測の事態が発生してこの包丁が凶器として使われた場合、間接的ではあるものの新郎と新婦に不快な思いをさせてしまわないだろうか。そう考えると安易に包丁を選ぶのはためらわれた。それで僕は包丁の写真の載っているページの角を小さく折り、それを候補の一つに加えてから他のページを見てみることにした。

 次に目に留まったのは防災セットだった。「地震に備えて防災セットを用意せねば」と思いながら、ついつい先延ばしになっていた。写真を見るとしっかりした銀色の防災用の袋が写っていたので、これを機会に一つ家に置かせてもらうというのもなかなかよい選択肢のように思えた。いざというときには新郎と新婦の愛を少しだけわけてもらい、僕の身を守ってもらうのだ。しかし、冥王星がはるか宇宙の彼方からその軌道を変えて地球に墜落してきた場合、僕にはこの防災セット一つで身を守りきる自信がなかった。太陽系の第9番惑星という肩書きを一方的に剥奪された冥王星は、はるか遠くでその腹いせを企んでいるに違いないと僕は日頃から考えていた。ともあれ、冥王星の謎の墜落と僕の圧死について、新郎と新婦に少しでも責任を感じさせてしまっては申しわけない。それで防災セットを選ぶのも保留とし、ページを次にめくった。

 そんなことを三日三晩繰り返しているとすっかり寝不足になった。四日目の夜にはとうとう夢にまでカタログが出てきた。夢の中のカタログは開くとダブルサイズのベッドぐらいの大きさがあり、そして終わりがなかった。ページは永久に続いていて、僕はずっと悩みながらその大きなページをめくっていた。あまりにも大きすぎて気に入ったページがあっても角を折りにいくのが一苦労だった。

 翌朝目覚めるとびっしょりと汗をかいていた。枕元を見ると、寝る前に眺めていたカタログが置いてあった。ただ、自分で開いた記憶のない、みかんの写真が載っているページが開いていた。とてもおいしそうなみかんだった。それで僕はみかんを注文することにした。後日、おいしいみかんがたくさん届いた。