水の値段

 貧乏臭い話だがミネラルウォーターではなく水道水を飲むようになった。水分を摂取するのは体にいいという話をどこかで聞いた事があったので、僕は毎日多量の水を飲むのだ。通販でまとめて大きなペットボトルを買えば安いのだが、保管するのに場所を取るし、出先で500mlのペットボトルを買ってしまうことの方が多い。でもそれだとお金がかかるので、ためしに水筒に水道水を汲んで持ち歩いて飲んでみることにした。シンプルでデザインのいい水筒がうまくみつかったし、夏場には氷を入れて持ち歩けば冷たい水が飲める。

 思い返してみると子供の頃はお金を出して水を買うということが信じられなかった。だって、タダで手に入る空気や水にわざわざお金を払うなんて。僕は形に残る玩具とか漫画を買わないとお金を使った気分になれない子供だったので、水に限らず自動販売機で気軽にジュースを買う友達を見ているとよく不思議な気分になった。それほど緊急で対応せねばならないほどの喉の乾きを感じるようなことは幸運にもなかったし、公園に行けばいくらでも水道から水が飲めたからだ。

 それから四半世紀を経て、水の値段に対する感覚がまたその頃に戻った。別に飲み比べても味の違いもわからないし、大田区の水道水は硬水だか軟水だか知らないが体の具合にも変化はない。どんな種類の飯を食べながらでも一緒に飲む事ができる。とても満足だ。これまで毎日ペットボトルを2本買っていたとすると、一日200円で計算しても一ヶ月で6000円支払っていたことになる。違いもわからないことのために、僕は今までiPhone一台分ぐらいの維持費用をかけていたのだ。長い間、たちの悪い宗教に洗脳されていたみたいな気分だ。

 そういえばいつか誰かが「歯磨きをするときもミネラルウォーターを使うんだ」と言っていてびっくりした。まるで新しい家を建てたときに大工さんが屋根の上からお金をばらまくみたいな金の使い方だ。お金があまるとそういうわけのわからない税金みたいな出費が増えて帳尻が合うようになっているのかもしれない。あまったことがないのでよくわからない。