卵を割るのがへたな友人

 友人の家に遊びに行って昼食をごちそうになった。不運なことに雨が降っていたので傘をさしていったのだが、僕は傘をさすのがおそろしく下手なので友人宅につくころには下半身がほとんどずぶ濡れになっていた。玄関口でそのことを謝罪し、タオルを借りて水気をよく拭いた。本当に傘の扱いが下手なのだ。ほとんど頭しか守れない。

 そのことを説明をすると友人は「僕も卵を割るのが下手で困っている」と言った。「人にはそれぞれ苦手なことがあるもんだ」と僕はてきとうなことを言ってあがりこんだ。台所で昼食の用意をしてくれている友人が「ちょっと見てくれないか」というので僕は肩越しに彼の手元を覗き込んだ。火にかけた鍋と銀色のボウルと生卵があった。日頃からてきとうな相づちばかり打っているので一瞬わけがわからなかったが、彼は卵を割るところを僕に見てほしいらしかった。話がまだ続いていたのだ。

 でもそんなに言うほど下手ってことでもないだろうと思った。だって卵を割るだけだぜ。ジョジョの第4部で川尻浩作になりすました吉良吉影がやったみたいに、鮮やかに片手でバカバカ割ろうというわけでもあるまい。普通に机の角にぶっつけて割ればいい。そう思って見ていたのだけど、確かに彼は卵を割るのがおそろしく下手だった。最初の一つは机の角にぶつけたときに中身が飛び出した。二つ目は逆に力が弱すぎてヒビが浅く、鍋の中に落としたときに細かいカラが大量に入った。おかげで湯を沸かし直した。三つ目はまた机の角にぶつけたときに中身ごとつぶれた。二回目ぐらいまでは笑っていられたのだけど、笑えなくなってきたのでかわりに僕が割った。

 それから二人で月見うどんを食べてモンスターハンターをやった。僕は部屋の隅に座り込み、彼は一人掛けのソファに座ってしばらくモンスターを狩った。どうして彼がわざわざ卵料理を用意しようと思ったのかが気になって集中できなかったが、それでもモンスターはうまく狩れた。大量にモンスターを狩ったあとにお茶を飲み、すこし近況を話してから礼を言って彼の家をあとにした。外にはまだ雨が降っていたので、帰り道でも僕はびしょ濡れになった。水深が胸まである川を歩いて渡って来たぐらい濡れていた。電車の中で他の人を観察してみたが、他にそんなに濡れている人は誰もいなかった。