五歳くらいの女の子とそのおばあちゃんが手をつないで歩いていた。二人ともどことなく上品な雰囲気を身にまとっていた。さっきまで降っていた雨があがったので、二人は閉じた傘を手に持っていた。きっと仲良しのおばあちゃんと孫だ。雨雲はあっという間にどこかに消し飛んで空は真っ青だった。とても素敵な陽気だ。おもわず笑顔がこぼれてしまう。
信号待ちをしていると女の子の声が耳に入って来た。
「傘がこうなっちゃったよう」
(見てみると女の子の傘は壊れていた、風が強かったせいだろう)
「なおるかなあ」
(骨が折れているのでたぶん治らないだろう、アンパンマンの絵が描いてある)
「どうしてすぐこうなっちゃうんだろう」
(理由はわからないけど俺もすぐそうなる、世の中には傘が壊れちゃう人と壊れない人がいるみたいなんだよ、理不尽な話だけども)
信号はなかなか青にならなかった。僕らは電車のガード下に立っていた。やってきた電車が真上を通り過ぎた。電車が去ったあと、おばあちゃんが僕に背を向ける格好でゆっくりとかがみ込んで話し始めた。
「これはね、※※ちゃんがしっかりおばあちゃんの言うことを聞かないから壊れちゃったんだよ」
「うん」
「わかるかい、※※ちゃんがおばあちゃんの言うことを聞いて、ちゃんといい子に、さっき※※さんに会ったときにも御挨拶して、いわれたとおりにしっかり傘をさしていれば壊れなかったんだよ」
「うん」
「わかったかい」
「わかった」
「じゃあ言ってごらん、傘はどうして壊れちゃったの」
「おばあちゃんの言うことを聞かなかったからこうなっちゃった」
「こうって?」
「壊れた」
「なにが?」
「傘が」
前に書いたように僕も傘をすぐ壊しちゃうのだけど、そのときはたまたま僕の傘は壊れていなかった。ぼけっとしていたおかげで信号がまた赤になってしまった。それでもう一度待つ羽目になった。