物を捨てる時期がきた

 やたらと物を溜め込む時期と、やたらと捨てる時期がある。久しぶりに捨てる時期がやってきたので、いろいろなものを捨てることにした。しかも今回やってきた捨てる時期は、人生にそう何度も訪れないようなとても激しい捨てる時期だった。

 時期がやってきた僕は、なにかに取り憑かれたように部屋の物をガンガン捨てていった。部屋を見回すと本やCDや服や食器などが震え上がっていた。めいめいが僕とのあいだの些細な思い出を引っ張りだしてきて情に訴え、なんとか自分だけはこの未曾有のリストラを免れようと試みているように思えた。しかし僕はカルロス・ゴーンになったつもりで心を鬼にして大胆な整理を行った。鏡の前に立って一度顔の真似もしてみた。具体的にカルロス・ゴーンがなにをしたのかはよく知らないが、いつかテレビで見た顔つきだけは憶えていたのだ。

 しかし、捨てても捨てても物が減らないことに驚いた。もしかすると僕の部屋のなかにはどこかに四次元ポケットのような亜空間につながっている場所があって、そこから毎日どんどん物が湧いてきているのではないかと思うほどだった。でもそんなはずがないのだ。一つ物を捨てれば、その分だけ確実に部屋の容積は空いていくはずなのだ。僕はためしに捨てようとしていた文庫本の寸法を測ってみた。15cm × 10cm × 1cm = 150平方cmだった。その計算をしてみると、たしかにその本を捨てる前と後では僕の部屋は150平方cm分ほど広くなったように感じた。自分が理系に進学してよかったと考え、僕はまた物を捨てる作業を再開した。

 本をコレクションする人間にとって困るのは漫画の扱いだ。学生時代は漫画を全巻揃えて、暗記するほど読み返していた。しかし、この10年で漫画の巻数は大きく変化した。10年前の僕の本棚を思い出してみると、幽遊白書は19巻で完結していたし、るろうに剣心でもせいぜい28巻だった。ドラゴンボールは42巻まで出版されていたが、それはかなり長い方だった。

 しかし、いま好きな漫画を揃えようとするとなかなか大変だ。ワンピースは67巻まで出ているし、ナルトも61巻まで出ている。ジョジョだって全パート揃えようとしたら100巻超えてしまうのではないか。おまけにこれらの作品は、これからも巻数を伸ばしていくのだ。僕は増加する可能性のある漫画を収納するうまい方法をいまだに確立できていなかった。

 だからある時点でもう漫画は家に置かないことに決めた。しかしこれはあくまで物質的な理由による判断なので、心情的には聖書のように手元に置いておきたい。苦渋の策として、捨てるなり売るなりする前に、もっとも思い入れの深い巻だけを手元に残して置くという方法を採用することにした。やってみると、これはなかなかいい方法だった。

 例えばジョジョであれば、もっとも心に残ったのはこの画像の二冊(27巻、28巻)だ。ジョースター一味とDIOが対決する巻で、ジャンプで読んでいた当時は次の週が待ち遠しかった。もちろん、できることなら全ての巻をとっておきたい。でも東京の土地代は馬鹿にならないのだ。僕はいつかジョジョやナルトやワンピースを一列に並べることができる豪邸に住むことを決意し、泣く泣くジョジョを処分した。この二冊を代表として手元に残しておくことで、いくぶんか処分するバリアを取り払うことができた。

 さて次はなにを捨てようかな。